jfさんへの返答

下のエントリーにコメント頂いたjfさんへの返答がやたらと長くなってしまったので、別エントリーにしました。jfさん、コメントありがとうございます。(経緯を知りたい方は、harry_gさんのところのコメントを読んで下さい。)

****************************

アクティブ運用も確かに一種のサービス業ですが、ひねくれた見方をすれば、顧客のオーバー・コンフィデンスを満たしているという意味でのサービスであって、客観的な「運用能力」を提供するサービスでは無いように思えます。他のサービスであれば、時間を節約するとか、クォリティの高いサービスを受ける対価として、顧客は何らかのコストを支払いますが、アクティブ運用の場合、「事前に」良いファンドを選ぶことは殆ど不可能ですし、マネージャー・セレクションに時間が掛かったりするので、パッシブと比較すると時間の節約にもなりません。(自分自身が直接運用するのと比較すれば、時間の節約になるかもしれませんが。)

アクティブ運用というビジネスモデルは、顧客が「自分は事前に良いファンドを選ぶことが出来る」と思っていることが成立の条件になると思いますが、その前提条件はかなり怪しいのではないでしょうか。(とは言うものの、自分の仕事は、それが前提ですので、かなり自虐的な考えではあります。)一方、その他のビジネスでも、顧客のオーバー・コンフィデンスという要素は大なり小なり入っているでしょうが(似合いもしない服を買うとか)、顧客が主観的な判断として満足なら、それはそれでも良いのではないかと思います。何に価値を見出すかは人それぞれですので。それに比較すると、金融商品の場合はリターンという客観的な数字が出てしまいますので、顧客の主観的なオーバー・コンフィデンスを満たせばそれで良いというものではないように思えます。

先日New York Timesに、アメリカ全体でアクティブ運用に掛けているコストが年間約$100billion (10兆円)であるという記事がありました。つまり、アクティブ・ファンド全体を、同額のパッシブ投資と比較すると、毎年10兆円分もリターンが低いということです。自分がアクティブ・ファンドに投資してベンチマーク比で勝つためには、誰か別の人が10兆円のコストおよび自分のアクティブ・リターンを負担する必要があるわけです。

jfさんが仰るとおり、他の業界でもゼロサム・ゲーム的な部分は確かにあります。ただ、アクティブ運用の場合、そこに関わる中間コストが合理的には説明できないぐらい大きすぎるのではないかと思います。トヨタが売った車は、日産が逃したセールになりますが、両者合わせれば、車が一台売れたというだけで、それ以上でも以下でもありません。アクティブ運用の場合は、勝者・敗者ともに運用報酬を支払いますので、両者を合わせると市場リターンからそのコストを引いた分が、ネットのリターンになります。言い換えれば、ゼロサム・ゲームではなく、ネガティブサム・ゲームなのかもしれません。

harry_gさんが、HFも他の資産クラス(株など)と同様、パフォーマンスの判断は困難なので、同じではないかということを書かれてますが、自分は若干違うような気がします。HF(アクティブ運用)のリターンの源泉は、他人が損をすることであって、株投資のリターンの源泉(企業の経済活動)とは違います。いずれもパフォーマンスの判断は困難ですが、資産クラス全体として、リスクに見合ったリターンが(多分)期待できる株式投資に対して、HFの場合、資産クラス全体ではリスクに見合ったリターンは期待できません。全体としてのリターンは費用が掛かる分だけ、マイナスになるはずですので。実際には全体でマイナスにならないことも多いようですが、それはベータのエクスポージャーが混ざってたり、サバイバーシップ・バイアスの問題があるからではないでしょうか。

自分が最も違和感があるのは、HFが最先端の金融技術で「価値を創造する」かのような言い方をする人が多い点です。そうではなくて「他人から価値を横取りする」技術に長けた(イメージがある)人たちがHFなのだと思っています。アクティブ運用も、それを通じて資金の効率的な配分を行うという意味で、経済活動に貢献している(価値を創造している)側面があると言えますが、パッシブ運用の場合でも同じ果実は得られますので、コストを掛けない分フリーランチを得られます。

ストラクチャーの問題は、確かに他の企業でもIPOやMBOの時に問題があります。ただ、これは株主とマネージメントの二者間のCOI (Conflict of Interst) であって、HFやアクティブ・ファンドの場合、株主・マネージメント・顧客の三者間でのCOIになるため、問題の性質がもっと難しいのではないかと思います。harry_gさんが、HFは「株主、会社、顧客」の利害が「運用リターンの最大化」で一致していると仰ってますが、そう努力しているのは分かるものの、実態としてはどうかなと思ってます。一例を挙げると、ハイウォーターマーク式の成功報酬の場合、最初にロスが出たとすると、HFとしては(通常複数のファンドを運営していると思いますので)そのファンドに力を入れるよりも、別のファンドに労力を注ぐほうが理にかなっているでしょうが、両方のファンドに投資している投資家の観点からすれば、前者に力を入れてもらった方がハイウォーターマークに達するまでは成功報酬を支払う必要がないので合理的です。まあ、労力を注げばリターンが高くなるとは限りませんが。

自分はHF・アクティブ運用を否定しているわけでも、パッシブ運用をを薦めているわけでもありません。ただ、単純な考察として、「運用に自信があれば、自分(あるいは株主)のお金を運用すればよいのでは?」という疑問を追及していくと、どうしてもアクティブ運用というビジネスモデルに矛盾点があるような気がしてならないのです。
[PR]
by stupid-market | 2008-04-19 07:59 | Asset Management
<< Just over the line Nothing Reliabl... >>